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『贈り物(ギフト)は、ひとつとは限らない』

スカしたアイツがそう言うから、もう一度だけ、薄汚れた部屋の中を眺めてみる。
すると、いつも座ってる場所のすぐそばに、それはあった。

しゃくだけど、俺はその包みを開けてみることにしたんだ。





初めてヤツと出会った夏、俺はいつもの店で酔いつぶれていた。

相手は、俺が未成年だと承知の上だ。
こんな時間のこんな場所。ロクでも無い奴しかいないし、それは俺自身にも当てはまる。
相手が知ったらブッ飛びそうな年齢を、無理やりサバ読んでごまかして、ウリまがいの事をしてるんだから。


帰る場所はあるんだけど、あそこには帰りたくない。
心配してくれる人もいるけど、なんだかそれがイラつくんだよ。

戻りたい場所はあるけど、あそこにはもう戻れない。
だってもう、飛べないから。

俺の右足、鉄の棒が2本も入って重くなっちゃった。

だからもう飛べないんだよ。




俺の隣でビールを飲んでいた男が、カウンターの上にグラスをゴトリと置いた。
「よぅ、この後はどうするんだ」

泡の付いた髭を無造作に拭きながら、男はニヤニヤ笑っている。
今どきウエスタンブーツに革ジャン姿の、ハーレーにでも乗ってそうなゴツい奴。
……もう決めてんだろ?つまんない事いちいち聞くな。
未成年にこれだけ飲ましといて、今更。


何してもかまやしないから、さっさと休める場所に連れてってくれ。
とにかく眠いんだ。とにかく疲れた。
「やれ」って言うならなんだってやるよ。
俺はただ、眠れればいいんだ。

「ホラしっかり立てよ、手間かけさせんな」

わーかったから!そんなに引っ張らないで。
急に立つと気持ちワリーじゃん。
ああ、ダメ、ヤバい。なんか吐きそう……!

「うわっ、汚ねぇ!どうしてくれんだよこのブーツ!?」

うるせぇうるせぇ、だから言ったじゃん。引っ張るなって。


「ウリのクセにチョーシこきやがって、こっち来い!」

ヤベー。違った意味でヤられるかも。
逃げた方がいいかな。

でも足が……右足、俺の言う事きかねーし。
あぁ、ココで死ぬのかも。

それもいいか。
どーでもいい、めんどくさい。
さよなら俺。さよなら人類。
ぜーんぶくたばっちまえばいい、バーカ。

そうやって、俺がこの世に別れを告げた時。




「――なぁ。
 その子、未成年だろ。ヤバいんじゃない?かわいそーじゃん」

……?

「連れ込むにしたってまだ子どもだし、そいつ男でしょ?ここらへんあったっけ、そういう場所」

「ハァ?何カッコつけてんだテメー」

誰?もしかして、俺を助けようとしてくれてんの?

へぇ……。
ココにもそんな物好きな奴がいたんだ。
背が高い。ガタイもいい。顔はどうだろ?
って、キャップ被ってよく見えねー。

「そーゆーノリ、苦手なんだよ。ココに来るのもナイショだしさ」

キャップ男はユラリと椅子から立ち上がると、鍔を目深に引き下げた。
そして、口の端を上げて薄く笑いながら、

「つー訳で、人気(ひとけ)のない場所に移動しますか。ね?」