1 『贈り物(ギフト)は、ひとつとは限らない』 スカしたアイツがそう言うから、もう一度だけ、薄汚れた部屋の中を眺めてみる。 すると、いつも座ってる場所のすぐそばに、それはあった。 しゃくだけど、俺はその包みを開けてみることにしたんだ。 初めてヤツと出会った夏、俺はいつもの店で酔いつぶれていた。 相手は、俺が未成年だと承知の上だ。 こんな時間のこんな場所。ロクでも無い奴しかいないし、それは俺自身にも当てはまる。 相手が知ったらブッ飛びそうな年齢を、無理やりサバ読んでごまかして、ウリまがいの事をしてるんだから。 帰る場所はあるんだけど、あそこには帰りたくない。 心配してくれる人もいるけど、なんだかそれがイラつくんだよ。 戻りたい場所はあるけど、あそこにはもう戻れない。 だってもう、飛べないから。 俺の右足、鉄の棒が2本も入って重くなっちゃった。 だからもう飛べないんだよ。 俺の隣でビールを飲んでいた男が、カウンターの上にグラスをゴトリと置いた。 「よぅ、この後はどうするんだ」 泡の付いた髭を無造作に拭きながら、男はニヤニヤ笑っている。 今どきウエスタンブーツに革ジャン姿の、ハーレーにでも乗ってそうなゴツい奴。 ……もう決めてんだろ?つまんない事いちいち聞くな。 未成年にこれだけ飲ましといて、今更。 何してもかまやしないから、さっさと休める場所に連れてってくれ。 とにかく眠いんだ。とにかく疲れた。 「やれ」って言うならなんだってやるよ。 俺はただ、眠れればいいんだ。 「ホラしっかり立てよ、手間かけさせんな」 わーかったから!そんなに引っ張らないで。 急に立つと気持ちワリーじゃん。 ああ、ダメ、ヤバい。なんか吐きそう……! 「うわっ、汚ねぇ!どうしてくれんだよこのブーツ!?」 うるせぇうるせぇ、だから言ったじゃん。引っ張るなって。 「ウリのクセにチョーシこきやがって、こっち来い!」 ヤベー。違った意味でヤられるかも。 逃げた方がいいかな。 でも足が……右足、俺の言う事きかねーし。 あぁ、ココで死ぬのかも。 それもいいか。 どーでもいい、めんどくさい。 さよなら俺。さよなら人類。 ぜーんぶくたばっちまえばいい、バーカ。 そうやって、俺がこの世に別れを告げた時。 「――なぁ。 その子、未成年だろ。ヤバいんじゃない?かわいそーじゃん」 ……? 「連れ込むにしたってまだ子どもだし、そいつ男でしょ?ここらへんあったっけ、そういう場所」 「ハァ?何カッコつけてんだテメー」 誰?もしかして、俺を助けようとしてくれてんの? へぇ……。 ココにもそんな物好きな奴がいたんだ。 背が高い。ガタイもいい。顔はどうだろ? って、キャップ被ってよく見えねー。 「そーゆーノリ、苦手なんだよ。ココに来るのもナイショだしさ」 キャップ男はユラリと椅子から立ち上がると、鍔を目深に引き下げた。 そして、口の端を上げて薄く笑いながら、 「つー訳で、人気(ひとけ)のない場所に移動しますか。ね?」 |